18世紀から19世紀にかけ、ちょうど美術史が古典派からロマン派へと流れを変える中で、フランスにおけるロマン派の最初の画家として、彗星のように時代の狭間を駆け抜けていったのがテオドール・ジェリコーである。
狂気にも近い傾倒をもって対象に執着し、何物かにとり憑かれたかのような一途さで33年という短い生涯を終えたジェリコーの作品は、“芸術”とはどういうものであるかという問いに、あるひとつの答えを与えてくれるような気がする。すなわち、他人の称賛や社会的な名誉や金銭的成功といったものを決して動機としていない、という点である。
21歳の若さをもって、官展に『突撃する近衛猟騎兵士官』をひっさげて華々しい登場をなしとげ、画壇に大きな衝撃を与えたジェリコーだったが、この作品に続く数作は、そのあまりの大胆で斬新な筆のタッチゆえに、評論家たちの反発を買い、受け入れられることはなかった。
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[メデューズ号の筏] |
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テオドール・ジェリコー
1819年 油彩・カンバス
パリ・ルーヴル美術館蔵 |
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